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zoom RSS ねこねこパニック [二次創作 SS 竹本泉]

<<   作成日時 : 2009/07/05 18:44   >>

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ねこねこパニック! (16P)







 ここは、数千年前、突如いなくなってしまった人間にかわり、猫たちが文明を受けついだ世界である

 猫たちは人間の文明を維持するために、人間になりきって生活している



 そんな猫たちがある日、アドバイザーとして別世界から人間を呼び出す方法を発見

 それが村上百合子なのであった



 まあ、そんなわけで―――――











 ドンドコドンドコ ♪  ドンドコドンドコ ♪











 なにかというと猫の世界に呼び出されてしまう百合子なのである













 ぼふんっ、という大音量とともに、魔方陣の中心に顕れる一人の少女。
 後ろ髪を一房にまとめて赤いリボンで結っているこの女の子こそが、この世界で唯一の、最強にして天下無敵な女子高生な人類だったりするのだが
「だーっ、苺ケーキ苺ケーキ苺ケーキーっ!あんたたち、わたしがマキシムの限定ケーキ買うのにどれだけ並んだと思ってるのよー!しかも、お金払ったのに、まだ商品受け取ってない〜!」
「すみません〜〜〜っ」
 なんとも、今日も暢気で平和な猫世界なのであった。




「はぁー。まあ呼び出されちゃったもんはしょうがないけどねー。もう、あんたたちもなんだってこういつもいつもタイミングを見計らったかのように呼び出しちゃってくれるのかしら?」
 そんな、どこかくたびれた様子で住宅ローンの返済がまだあと25年もあるんだよなー、などと日本のサラリーマンのように、どこかしらあきらめた様子で肩を落としながら、それでもテーブルに用意されたオレンジペコと抹茶のムースに手を伸ばす百合子に、ふいに脇から声がかけられた。
「こいつらにそんな高度な思考が出来るわけないだろう?
今回は運が悪かったとあきらめるんだな、百合子」
「今回は、じゃなくて、今回も、でしょうがっ!てゆーか、どうせ今回もあんたがわたしを呼び出すように猫たちを脅迫したんでしょ!?」
 そういって百合子が睨み付ける相手は、ソファーに寝そべるような姿勢でだらけきっている。室内にも関わらずサングラスをかけているこの男は、この世界唯一のアレでソレな男性な人類だったりする。

 名前はヘンリヒ・マイヤー、元宇宙飛行士で現在は絶賛暇人生活満喫中な困ったやつなのである。
 なんだってまたこんなことになっているかというと、実はこの世界、なんだかよく分からない理由で人類全体が宇宙進出してしまい、結果として現在この惑星には猫たちとこの男しかいないのである。

 そんなヘンリヒはといえば、宇宙軍のパイロット時代、新型の亜光速宇宙船のテスト飛行で人工冬眠中でぐっすり寝ている間にウラシマ効果で外部時間で5000年が経過、そして母星に帰ってきた頃には既に人類は存在しておらず、そこはあたり一面が猫だらけという冗談のようなメルヘン世界になっていたのであった。
 それも、ご丁寧なことに、猫たちにはなぜか人語を解するほどの知性が備わっており、人類がこの惑星から立ち去った後も、いつ人間たちが戻ってきても大丈夫なようにと、人間文化を猫たち独自の感性により今も必死に維持し続けていたのであった。
 もっとも、その方向性に若干疑問を持ったりしている百合子とヘンリヒだったりするのだが。

 悪夢のような世界だった。―――――当初、猫アレルギーだったヘンリヒは、晩年になってから多くの人にそう語っている。百合子がこの世界をたびたび訪れるようになってからは、百合子の機転により漢方薬による体質改善を施されたおかげか、猫アレルギー自体はすっかり良くなったのだが、それでも猫嫌いそのものは終生治ることはなかったようだ(ただし仔猫には優しい一面もあったりするあたりどうにも素直じゃないところもあったりする)





「おい、今回はおれじゃないぞ。そこの下等生物どもだ。またぞろ例のごとく猫どもがなにやら怪しげな企みを企てているらしくてな、おまえの知恵を借りたいらしいぞ」
「だから、ヘンリヒがいるのに、なんでわたしがいちいち呼び出されなくちゃいけないのよー!」
 縞々柄の猫と黒猫の二匹に振り返って、うがーっとわたしは涙目で叫ぶ。食べ物の恨み、特に女の子の甘味に対する欲求を甘く見たら駄目なんだからねっ!
 それに、それに。……だぁぁー、またわたしってば突然消えるっていう評判が立ってしまうのかしら。恥ずかしくて、もうあのお店に行けないじゃないのよ〜!

「で、でも、百合子様〜、マイヤー様にお伺いしようと思ったのですが、お会いした瞬間に追い払われてしまいましたので、しょうがなかったんですー」
 どこか、おどおどとした口調でわたしに語りかける縞猫は、シマシマ・ハヤカワという名前の弁護士な猫。日本猫みたいでちょっぴりかわいげがあったりする。わたしからは『シマちゃん』と呼ばれていて、何気に猫の間ではわたしと一番仲が良かったりする。
「こいつに聞くだけ時間の無駄だ」
 と、ぼそっと呟いた黒猫は、クロフ・J・カーターという名前の株屋な猫。無愛想でダンディな猫である。わたしからは『クロちゃん』と呼ばれている。寡黙な猫なのであまり多くはしゃべらないが、やはり何気にわたしとはよく顔を合わせることもあり仲は良かったりする。
 この黒猫、当のヘンリヒ本人を前にして中々良い度胸をしている猫なのだが、案の定ヘンリヒに後ろから捕まれて空中に放り投げられていた。やれやれだわ。

「ちょっと、ヘンリヒ、やめなさいよ。で、シマちゃん、どーしたのよ?今度は石油ファンヒーターでも見つけたの?」
「はぁ、石油ファンヒーターですか?」
 目をまん丸にしてキラキラさせながら、石油ファンヒーター?ねぇなになにそれなに?と、逆にわたしに目で問いかける。
 ちょっと、シマちゃん、あなた瞳孔が全開で開いちゃってて、なんだかとっても怖いわよ?
「あー、いや、いやいや、なんでもないわ。知らないならそれでいいの、うん、忘れて。ううん、忘れなさい。あー、それにしても最近めっきり暑くなってきたわねー、あんたたち、いつもいつもフォーマルな服ばかり着てるけど暑くはないわけ?」
 この流れは大変よろしくないと感じ取ったので、わたしは露骨に話題をそらすことにした。こたつの時の二の舞だけはごめんなのだわっ。
「正装は文明人の嗜みですから」
 と、二本の後ろ足で直立しているシマちゃんは胸を張って答える。それにしても直立してる猫っていつ見てもシュールよね、もう慣れたけど。
 などと自己完結する百合子は最近アレな出来事に対して色々と思考停止気味なのである。

「けものの分際で文明人気取りとは片腹痛いぞシマシマ。そういう台詞は海水浴の一つでも出来るようになってから言え。うむ、それがいい、うむうむ。人間は暑いときには海水浴と相場が決まっているのだ」
 と、ヘンリヒは実に良い笑顔でシマちゃんに顔を近づける、と同時にシマちゃんは汗をかきながら後ずさる。
 はぁ、またヘンリヒの猫いじりが始まったわね、本当にこの男にも困ったものなのだわ。
「魚と違って、陸の生き物は身体が水に浮くようには出来てないんです〜」
「まったく、だからおまえらは下等だというのだ。人間は泳ごうと思えば数q程度なら割と簡単に泳ぐことが出来るんだぞ?おまえたちはおまえたちの文明が継続する限りおまえたちの手によって人間文化を保存したいと考えているのだろう?
……それなのに、まったく。せっかくおれが人間のことを教えてやっているというのに、なんというワガママな連中だ」
 そう言って、深いため息をつきながらシマちゃんのほっぺをぐにぐにとひっぱるヘンリヒ。この子たちってヘンリヒに色々されても引っ掻いたり噛みついたりはしないのよね。
 やっぱり普段は人並みの理性があるからなのかしら?
「もうっ、ヘンリヒもそのぐらいにしなさいよ。だいたい猫の水嫌いは今に始まった話じゃないでしょうに、なに意地悪なこと言ってるのよ」
「おれの元いた時代の猫は、夏になれば犬と一緒になって川で泳いでいたし、公園の噴水に子供と一緒になって、はしゃぎまわっていたりしたものだったぞ?」
「ほんりょうれふふぁ〜?」
「嘘くさいわねー」
「……(こいつがホントのことを言うわけがないだろ)」

「……おまえたちがおれのことをどう思っているのかがよく分かった」
「日頃の行いって大事よね♡」

 わたしの言葉に、うんうん、と一緒になってうなずく猫たち。
 だって、ねー。ふつうなら水滴一滴ですら嫌がるっていうのに、どうすれば猫が泳ぐだなんて信じられるのかしら?
 そりゃ中にはそんな猫もいるかもしれないけど、TVの動物番組で紹介されるぐらいの珍しい個体だけを抽出して、それを一般化するような話をされてもねー。
 少なくとも、わたしの周りにいた猫は雨粒一滴でダッシュで逃げるような猫たちばかりだったしねー。
「ふんっ、まあそんなことはどーでもいい。おいシマシマ、さっさと百合子に用件を話してやれ」
「なんでそんなに偉そうなのよ?」






「えーとですね、実は、この本に載っている事についてなんです」
 そう言って、シマちゃんは、なにやらカラフルな装丁を施された本を持ってきた。
 パラパラとめくってみると、どうやら世界各地の祭りについて書かれた本みたいね。といっても堅苦しい専門書の類じゃなくって、どちらかというと旅行者向けというか、暇つぶし的・雑学的な、割とお気楽な感じで書かれた内容みたいなんだけど。
 ふと付箋紙が貼られていたのが目に付いたので、そのページを開いてみると―――

「あら、七夕祭り?」
「あ、やっぱりこれもお祭りなんですか?具体的な詳細が記載されていなかったので、よく分からなかったんです」
「へー、そういえばあっちの世界の地元でも時期的にそろそろ七夕なのよね。こっちだとどうなのかしら、カレンダー的にはどうなの?こっちの暦ってあまり気にしたこと無かったんだけど」
「? 七夕祭りは、開催の日時が決まっているんですか?」
「えっと、たしか新暦と旧暦の二通りのやり方があって、普通は7月7日にやるんだけど、地方によっては8月になってからやる場合もあるみたいなのよ。わたしの家っていうか地元は7月だけど、友達の田舎のおばあちゃんの所では8月にやるって言ってたわね」
 わたしの言葉に、例のごとく、「おー」「おー」と周りの猫たちが騒ぎ出す。うーん、今みたいな話でならまだしも、妙なことで関心される場合もあるから考え物なのよねー、この子たちって。

「それで、どういった祭りなんですか」
「うーん、と。あれ?
……そういえば、わたしも正直よく分からないっていうか。曖昧なことしか覚えていないんだけど。―――天の川に挟まれた、織姫と彦星の年に一度のラブストーリー?」
「はい?」
 テキトーに答えてみたら、シマちゃんも、それだけではなんのことなのかよく分からないらしく聞き返してきた。ま、そりゃそうよね。わたしだってそんな風に聞かされても、たぶん聞き返すだろうし。

「いやいや、ちょっと待って。今、思い出すから、ってゆーかその本に載ってるんじゃないの?」
「この祭りに関しては、他のものに比べて記載内容が少ないんです。それで困ってるんです」
 まあ、たしかに、世界全体から見れば、七夕祭りって別にお客さんが呼べるような内容の祭りじゃないし、どっちかっていうと、それぞれの小さなコミュニティ内での催し事ってイメージがあるし。そう言う意味ではしょうがないのかもしれないわね。

「あー、まあざっくばらんに言えば、七夕の日に笹に願い事を書いた短冊を吊しておけば願い事が叶いますよーって話よ、お祭りのやり方的に言えば。歴史的な話とかの話は、ごめん、ちょっと分かんないわ。そういえばヘンリヒのいた時代には七夕祭りってどうだったの?」
「んー、というか、それってたしか東方の文化だろう?おれの生まれた地方にはそんなのは無かったからなー。夏の祭りと言えば、トマトをぶつける祭りとかならあったんだが」
「なにそれこわい」
「なんだ、百合子は知らんのか?トマト祭りとは、とにかくその日は無礼講で、誰に対しても全力でお互いに一心不乱にトマトをぶつけまくる祭りなのだ。その日は世界中から酔狂な連中が大勢集まって大変な賑わいをみせていてな。もちろん祭りが終わった後は町一面がつぶれたトマトだらけになって、数日間は町全体が大変トマト臭くて迷惑きわまりない愉快な祭りだったぞ」
「……」
「……」
「……」
「……いやまて、おい、なんだなんだおまえたちのその目は。これはホントにあったんだぞ?ホントの話なんだぞ?」
「いや、まあ、知ってるけど。あれでしょ、それってスペインの祭りでしょ?へー、数百年経ってもまだ残ってたんだ。……でも、ふーん、ヘンリヒってスペインの生まれだったのね」
「スペイン?なんだ、それは」
「あー?」

 あら?あれってたしかスペインのお祭りかと思っていたのだけど違ったのかしら?昔なにかのクイズ番組で観たような気がしたんだけどなー。もしかしてイタリアだったのかしら、それともオランダ?でもオランダっていうと、どっちかっていうとチューリップ祭りって感じよね。イタリアだったらピザなのかしら?
 う、うーん、ヨーロッパって小国がいくつもあったりしたりするから位置関係とかいまいち分からないのよね。それもこれも全部、ローマ帝国が滅亡したのが悪いのだわっ!おまけに時代によって、国名は変わるし場所も変わるし王国同士が例外なく血縁同士でおまけに一族同士で結婚を繰り返すから家系図がなんだか大変アレな事になってるし、本当に受験生泣かせなのよねー。
 ……ああ、そうよそうよそうなのよ。わたしってば受験生なのに、まったくなんだってわたしってばこんなところでこんな事やってるのかしら。
 って、今更だけど、今更なんだけどー!
 あー、やめ、やめやめ。今はとりあえず、そういうことは考えるのはやめましょ。ゲームの強制イベント発動中だと思えばどうって事無いのよ、どうせキャンセルできないのよ、エスケープも出来ないのよ、人生簡単にリセット出来たら誰も苦労なんてしないのよー!

「お、おい、百合子、何を一人で興奮してるんだ?」
「な、何でもないわ、気にしないで。……あ、そうそう、七夕と言えば、織姫と彦星なんだけど、織姫がベガで彦星がアルタイルだったかしら、たしか。明るい星だから、夜になればわたしの世界でも見ることができたから、こっちの世界ならはっきり見えるわね。あ、そっか。そういえば、こっちの世界って天の川も地上から普通に見ることが出来るのよね。へー、いいじゃない、なんだかロマンチックで」
「……ほー、ベガにアルタイルか。それはまた随分と近場の恒星にまつわる話だったんだな、七夕とかいうヤツは。とはいうものの光年単位には違いないが。残念ながら、おれの宇宙船では行くことは無理だな」
「あら、ヘンリヒの宇宙船ってワープできないの?」
「おまえ、SFじゃあるまいし。……いや、まあ、こいつらを創った連中の技術力なら、超光速航法だとか時空間跳躍航法ぐらい実現していたとしても、さして驚かんが。おれの時代の宇宙船では亜光速航法が限界だったから無理だな。人工冬眠とウラシマ効果で主観時間はともかくとして、外部時間が数千年経っても構わないってんなら、まあ話は別だが」
「全力でお断りさせてもらうわ」
 まあ、どっちにしても燃料不足でおれの船じゃ光年どころか数光時すら飛べやしないんだがな、と、ぶつぶつと呟くヘンリヒ。あー、まだ根に持ってるのね、あの時のことを。
 とりあえず、ヘンリヒの肩をポンポンと軽く叩いてやって慰めていたら、シマちゃんが突然大声を上げてきた。

「つまり、七夕とは年に一度のお願いごとが叶うという、神様から人間へのプレゼントなわけですね!
やっぱり神様っていたんですねー。その織姫さまと彦星さまが人間の神様なんですか?」
「え、えっと、あのねシマちゃん?」
「こうしてはいられません。では、さっそくわたしたちは七夕の準備をしますので、百合子様も楽しみにしていてくださいね!」

ぼふんっ

「あああああー、あの子たちったら、またまたなんだか大きな勘違いをしてそうな気がー」


















ドンドコドンドコ♪ ドンドコドンドコ♪


















「……で、なにをどうしてどーなったらこうなるわけ?」
「どうもこうもあるか、百合子。見ての通りの、ご覧の有様だよ」

 と、ヘンリヒがなげやりに肩をすくめてから、ソファに沈み込んでいった。あんた、そのうち溶けるわよ。まあ、現実逃避したがる気持ちも、これを見た後では分からなくもないのだけれど。
 なんというか、部屋の窓から見晴らす限り、ありとあらゆる場所に、笹・笹・笹、短冊・短冊・短冊、で埋め尽くされているのだ。まるで蔦のように建物の外壁にまで巻き付かせるようにして笹と短冊がひしめき合っていたりするのを見れば、誰だって目眩の一つも覚えようというものかもしれないわ。
 え、これなんていう前衛芸術?
そう、例えてみれば、ニューヨークの近代美術館の特設展にでも迷い込んだような感じ?
 まあ、夏の日差しは遮られて涼しそうといえば涼しそうなんだけど。いや、かえって邪魔で鬱陶しくて暑苦しいのか、これは?

 いや、あの。
 えーっと、たしかにわたしは笹に短冊をつけて願い事が叶うお祭りだわよん、と簡単に説明はしたんだけど。
 でも、これはいくらなんでもやり過ぎなんじゃないのかしら?
 と突っ込まなければならない筈なんだけど、肝心のシマちゃんたちが今この場にはいない。あら、どこにいるのかしら?

「あいつらなら、屋台の準備に出かけているぞ。なんだか、かき氷がどうとかこうとか言っていたが」
「あら♪ 出店まで出すなんて本格的じゃない♪」
「なんというか、これが七夕祭りというものなのか?おれには怪しげな宗教儀式にしか見えないのだが……」

 などと、鬱陶しそうに部屋の中にある笹の葉と短冊を、ペシペシと叩いている。
 うーん、これはこれで夏の風情って感じで、わたしは良いと思うんだけどなー。西洋人のヘンリヒにはこういう叙情が理解できないのかしら?
 まあ、これはちょっとやり過ぎと言えばやり過ぎなのだが、基本的には間違っていないので、今回はわたしもあまり怒る気にはなれない。
「なんだか、今、妙な同情のされ方をされているような気がするのだが」
「き、気のせいよ。とりあえず、いったん外に出てみない?街の中がどうなってるのか気になるし、シマちゃんたちとも合流したいし」
「あー、百合子よ。まだ外は暑いのではなかろうか」
「なに言ってるのよ、もう夕方よ。ほら、ヘンリヒ、夕涼みに出かけましょうよ」
 ヘンリヒったら、放っておいたらずうっと部屋の中でゴロゴロしてそうだしね。大体クーラーも無いような部屋の中にいたって暑いことには変わりがないだろうし。もっともこの男の場合、外に出てても、やっぱり木陰になってる芝生の上でゴロゴロしてたりするんだろうけど。








 ヘンリヒと二人で夕涼みがてらの散歩としゃれ込んでみたわけだけど、まあなんというか、街の中は笹の緑と短冊の色とりどりの原色によって、なんとも派手なことになっていた。
「これも、今後の猫の文化になっていったりするのかしらねー」
「連中が何が楽しくてこんなことをやってるのかなどと一々考えたくもないが、どうやら人間文化を維持することが生きていく上での最大の目的になってるみたいだからな。過去の人間がやったことならなんでもやるんだろうよ」
「……あんまり妙な真似はさせないようにしなさいよ?」
「しらん、おれに言うな」

 適当に屋台を巡りながら歩いていたら、いつの間にか河原まで来ていたので、ふとぼんやりと空を眺めていたら、ヘンリヒはごろりとその場で仰向けになっていた。
 風が気持ちいい。
 わたしもヘンリヒの横に座って夕日が沈むまでの時間を、ただ見守ることにした。

「―――百合子は」
「うん?」
「……いや、なんでもない」

 日没とともに、空は一秒ごとにその深みを増してきている。
 遠くからは祭囃子の音も聞こえてきている。
 ……七夕に祭囃子ってどうなのかしらと思わなくもないけれど、まあそれはこの際どうでもいいわ。
 それよりも、なんだかこの変な空気をどうにかしないと。

「あ、ヘンリヒ、ほら。夏の大三角形がはっきりと見えるわよ」
「ベガにアルタイルに……デネブか。5000年以上経っても奴らはその姿を変えずに相も変わらずそこにあるんだから、考えてみれば不思議なもんだな」
 二人して星空を眺めてるんだけど、ヘンリヒは星を見ているようで、それでいて何か別の物を見ているような、そんな茫洋とした様子でただただ夜空を眺めていた。
「……どうしたの? なんだか、ヘンリヒらしくないわよ?」
 ヘンリヒは、わたしの問いにもしばらく口を開かなかったが、それでも、わたしからの視線に耐えかねたのか、ゆっくりと語り始めた。
「さっきも話したように、ベガとアルタイルは、せいぜい地球から数十光年の場所にある宇宙的なスケールで考えれば非常に近い位置にある恒星でな。極端な話、百合子たちの時代でもおそらくは無人船なら送り込めるような場所にある星だ。まあその場合、結果を見届けるのに何十世代もかかることになるだろうから、ほとんど意味の無い行為だがな。だが、デネブは2000光年以上も離れている場所にある恒星でな」
「……それで?」
 ヘンリヒは気乗りしないのか、ため息をつきながらわたしの顔からは目をそらし、どこか焦点の定まっていないような目で大三角形のある方角を眺めている。
「つまり、今この地上から見えるその星も、そんな遠い場所にあるその星からの光ですらも、おれの生きていた時代よりも後の時代の光な訳だ」
「……」
「この星でおれだけがひとりのように、大三角を形作るデネブのやつも、実のところは結局の所、ひとり寂しく遠くで輝いているだけの存在なんだな、などと益体もないことを考えついてしまっただけだ。―――我ながら面白くもなんともない、実につまらん話だな」

 ……あ、あら? なんだかいつの間にやらわたしってば、気がつかないうちに地雷を踏んじゃったのかしら。弱ったわ、こんな時の空気ってどう変えればいいのかしら。って、ヘンリヒのやつも、なにを急に弱気になってんのかしら。それともやっぱり、色々とショックだったのかしら。
 ―――まあ、そりゃ、そうか。
 考えてみれば、この星で生きている人間がひとりだけだなんて、ちょっと普通にありえないシチュエーションだものね。映画や漫画じゃあるまいし、これをわたしで置き換えたら、朝起きたら家族も学校の友達も近所の人たちもみんないなくなっちゃったようなものなわけだし。
 わたしは、たまに呼び出されて、こうしてヘンリヒや猫たちのあれやこれやに付き合わされて、ああ、今日もめ〜わくな話だな、ぐらいにしか思ってなかったのだけれど、でも、ヘンリヒにとっては、ここが彼にとっての現実なのよね。多少なりともナーバスになるのも当然かも。……ましてや、猫嫌いの人間にとってはね。

 う〜ん、でもわたしって悲劇の物語って好きじゃないのよね。どうせなら喜劇の方がいいじゃない。考え方一つで、住めば都になるかもしれないわけだし。要はヘンリヒ次第って訳よね。
 うん、結論は出たのだわ。じゃあ、このなにやら先ほどからヘタレってる男を元気づけてやりますか。まったく、男ってこういう時、ホントだらしないわね。

 ちょうど都合の良いことに、シマちゃんたちが、こっちに向かって駆け寄ってくるところだったので、わたしはそれに便乗させてもらうことにした。

「ほら、ヘンリヒ。あんまり情けない姿をしてるとシマちゃんたちに笑われるわよ。―――それに、ほら。今はわたしがいるじゃない。シマちゃんたちだっているわけだし、あんたはひとりじゃないと思うわよ?」
 それとも、わたしたちじゃ不満なのかしら、と、ちょっと拗ねたような感じでヘンリヒの肩に頭を寄せてみる。今日だけの特別なんだからね。
 毒気を抜かれたような、気の抜けたような顔をわたしに向けた後、ボリボリと頭をかく仕草をすると、ヘンリヒは盛大なため息をつきながらも、わたしの頭を撫でてくれた。

「やれやれ、おまえにまで気をつかわれるとは。……ふん、まあなんだ。すまなかったな」
「今後は、そういうのは態度で示してくれるとうれしいんだけどな」
「……そういう台詞は10年早いぞ」
 とりあえず、無言でほっぺをつねってやった。失礼しちゃうわ、ふふっ。

「百合子様、マイヤー様。お部屋にいらっしゃらなかったので探しましたよー」
「ごめんねー、シマちゃん」
「ふんっ、どこに出歩こうがおれの勝手だ」
「では、さっそくお二人には、この短冊に願い事を書いてもらいます。これでこの祭りはフィナーレとなります!」
「あら、なんだか随分と責任重大ね」
「……やれやれ、たまにはお前ら猫どもの馬鹿騒ぎにも付き合ってやるか」
 と、ヘンリヒがシマちゃんから短冊と筆を引ったくるようにして受け取ると、猫たちがみんな一斉に目をまん丸にして固まった。
「……ど、どうされたんですか、マイヤー様。な、なにか悪い物でも食されたんですか? もしかして、かき氷の食べ過ぎですか?」
 ひそひそひそひそ、と猫たちが遠巻きにヘンリヒのことを眺めやっている。
「お、おまえらなー」
 ぷるぷると震え出すヘンリヒだけど、うーん、元気になってもらうには、ここはもう一押し欲しいところね。

「ほらほら、シマちゃん、クロちゃん、それにみんなも。今日はヘンリヒが特別に、みんなの言うことを何でも聞いてくれるそうよー。今しかないから何でも言っちゃいなさい!」
「なっ、百合子、おまえいきなり何を言いだすんだっ!?」
「ほっホントですか? じゃあ、わたしたちが短冊に書いた願い事は、やっぱり人間の皆さんが叶えてくれるんですね!?」
「それではとりあえず、図書館の本を閲覧したいんですけど、マイヤー様」
「とゆーか、いっそのこと図書館から立ち退いてください、マイヤー様」
「空中に放り投げるのはやめてください、マイヤー様」
「おれの顔をつまんで引っ張るのはやめろ」
「ええいっ、おまえらいい加減にしろ!」
 きゃー、と、ちりぢりになって逃げ出すシマちゃんたちと、それを追っかけるヘンリヒ。
 ふう、やれやれ、これでちょっとは元気になってくれたかしら。

 さてと。とりあえず、わたしの短冊の願い事にはなんて書いてあげようかしらね。






 そして、数日後、この星に二人目の宇宙飛行士がやってくることになる訳なのだが、それが誰の願いだったのか、またその後はどのような日常が繰り返されていったのか ―――それはまた別の機会があったら、またその時にでもってことかしらね






おしまい

----------
原作:ねこめ〜わく








あとがきみたいなもの

 この物語は、未だ百合子様が浪人生でも女子大生でもない、天下無敵の『女子高生』時代の物語である。
 あと、この話のオチ的に考えて、百合子様は天下無敵の『元女子高生な浪人生』じゃないとおかしいんじゃないのか?という無粋な突っ込みは受け付けないことにしているのであしからずご了承ください(笑)
 これは、竹本泉的パラレルワールドの物語なんです、と都合の良い逃げ道に逃げ込んでみる。

 ども、大変ご無沙汰しておりました、ただメモです。
 同時に何本も書き進めていたら、どんどんその数だけが増えていって、結局どれも終わらすことが出来ないという駄目人間にありがちな過ちをしでかしてました。もちろん現在進行形で。どれかに的を絞ればいいのにね。
 イメージ的には学生時代に、夏休みの宿題を解るところから始めようって感じで進めていって、31日になって虫食い状態だらけのレポートを見て呆然とするみたいな。いや、今でも基本的にそんな行動原理で生きてるんだけど。三つ子の魂百までって恐いよね。

 コミックスの方では3人目の宇宙飛行士もやってきて、一気にストーリーが進んだような感じですが、それでもやっぱり、ねこめ〜わくな物語はノンビリとしているわけで。
 あれこれと気になる設定が出てきて、竹本泉的SFワールドがいよいよ深みを増してくるのか?
と思いきや、なかなか答えを教えてくれないあたりがなんとも竹本信者の心をくすぐりまくりで、色々妄想が出来て大変楽しい感じです。

 わたしの中での、『ねこめ〜わくな世界』と『百合子様の世界』は、時代設定以外は、お互いに限りなく近似な値をとる、さよりなパラレル的なパラレルワールドなんじゃないかなーとの思いから、拙作『ねこねこパニック』ではそのような仮定の下で書いてみました。6巻を読んだ限りそんな感じかなーと。今までは、単純に百合子様の世界の未来の話かと思ってたんだけど、アレを読む限り違うっぽいしなー。
 同じ宇宙空間上の地球のコピーってのも考えたんだけど、あまりにお互いの時代・科学文明が違いすぎるってのもあるからなー、でも竹本SFだから、まったくもって油断は出来ないしなー。変だぜ。

 しかし

・ヘンリヒの世界:文明は宇宙時代に突入 当然、地球外知的生命体ともコンタクトをとってるよ ……魔法?ふざけんな
・ねこの世界  :科学も魔法も、人間があるというならある。だって本に載ってるし。あと人間は神様です
・百合子の世界:科学文明発展期 魔法とか妖精とか小人とかケサランパサランとかが存在するのかは不明

 竹本作品は、まれに(というか割と頻繁に)一見普通の話に見えて、実はやっぱり変な話だったりすることがあるから油断がならない(笑)
 百合子様の世界もその描写がないだけで、実は変な世界なのかもしれない。そもそも原作の最初あたりに出てきただけで、最近では百合子様の本当の居場所は実は、ねこの世界なんじゃないか、と思えるほど百合子様の世界の描写がない。あっても、一コマだけ、その消える瞬間だけとか。いやほんと、どーなってるの?
 これだけ定期的に短時間とはいえ失踪しても大きな騒ぎにならないって事は、やっぱり、百合子様の世界も実は相当に変な世界なんだろうか?ふだんの百合子様の日常生活が非常に気になる。

 とは言ったものの、竹本泉の漫画は、あれこれ深く考えるような作品じゃないので単純に楽しもうと思ってますけど。考えるな、感じるんだ。
 あと、そろそろ竹本先生は『のんのんじー』の続きを描くべきだと思います。
 ついでに、『トランジスタにヴィーナス』も、『いろいろものの…』で描いてほしいかも。最近、過去作品の流用だと、アップルパラダイス系ばかりが優遇されまくりでちょっと悲しい。いや、もちろんパラダイス系も好きなんだけど。……コミックスの売り上げさえ良ければ、売り上げさえ良ければ、ヴィーナスもまだ連載していたかもしれないのにっ!

 長々と書いてしまいましたが、まあそんな感じなのです。
 わざわざ最後まで読んでくださった皆さん、もし、ほんの少しでも竹本泉に興味を持たれましたら、是非とも一度コミックスを買ってみてください(古本は、どうしても新品で手に入らないっていうので無い限り、出来ればやめてほしいかも〜)
 もしくは、ちょろっと雑誌を立ち読みなんてしてみるだけでもいいのです。そして、気に入ったなら即座に書店にある竹本漫画を手にとってレジへ直行してください。

 コミックスの売り上げ不振で打ち切りとか、もうそんな悲しい目にあいたくないのっ。面白いのに、面白いのに〜!

 それではまた次の機会にお会いしましょう、うじゃうじゃ。







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