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zoom RSS 女神像は燃えているか?[二次創作 SS 竹本泉]

<<   作成日時 : 2009/05/18 22:17   >>

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女神像は燃えているか?(16P)








「ウィンスロウ!駄目っ、待ちなさいっ、ストップ!」
「にゃにゃ」
「うそっ、やっちゃったの!?だー、もうっ!逃げるわよ、ウィンスロウ!」
「にゃー」








 惑星リスボン     時に23世紀、列強諸国が勢力拡大にせめぎあうこの時代。その間にあって中立の立場に立つリスボンは、観光惑星として、また各国のスパイたちの諜報活動の最前線としても活況を呈していたのであった。……あったのである、あったんだってばどってんばってん。












「……今更だが、君は騒ぎを起こさないと気が済まない性分なのかね?イーナス」
 今時珍しい、しかし、この惑星では割とありふれた紙の新聞を眺めながら口元のパイプを静かに薫らせた後、こちらを値踏みするように一瞥するのは私の直属の上司、アントンワン・ホレショウ・ワース卿だ。舌をかみそうな名前だけど、これ以降、名前で呼ぶようなことは無いので心配は無用だと思いたい。私はいつも彼のことを階級で、つまり「大佐」と呼ぶことにしている。19世紀後期から20世紀初頭あたりに流行ったであろう現在でも割とスタンダードと呼べる英国老紳士風といった出で立ちの大佐は、特段苛立っているわけでは無かった。ただ、外の喧噪に、今初めて気がついたと言わんばかりに新聞を机の上に置いた後、左手であごを撫でながら静かに窓の外を眺めやるだけだ。私は極力、その方角を視界に入れないような立ち位置に立っているためそちらを見ることはできない。というか見る必要がないと言うべきか。
 なぜなら先ほどまで、その現場の中心にいたのが私だったりしたからだ。
「はあ」
 と、どうとでもとれるような曖昧な返事を気の抜けたような声で返す。疲れたのだ、疲れちゃってるのよ、さっさとシャワーを浴びてからスパークリングワインとクリームチーズ入りのクラッカーでも軽くつまんだ後、24時間ほどベットで「一人で寝るためだけ」に眠りにつきたいのだ。ついさっきまで大仕事をしてきたのだから、多少雑な対応でも問題ないわよね。ただし、私も好き好んで騒ぎを起こした訳じゃないんですけど、と言外に含ませておくのだけは忘れてはいけない。この程度の対応で叱責されるような物わかりの悪い上司を私は持った覚えはない。そういえば昨日のランチはなんだったかしら、タラコパスタだったかしら、それともトムヤンクン?

 私は連合政府情報省に所属する秘密諜報部員、エイプリル・イーナス。とある特殊能力のおかげで内勤ではなく外勤なんて危ないお仕事をしている働く少女だ。     働く少女だ。大事なことなので2回言いました。いやまぁそんな冗談はどうでもいいんだけど。えっと、大人の女性だからアレ関係も安心してくれていいわよ?15歳以上のかわいい女の子または15歳未満のかわいい男の子を絶賛大募集中。(大人の男は興味なし)
「にゃー」
 と、先ほどから私の足下ですりすりとニオイ付けに余念のないこの黒猫は、私の相棒ウィンスロウだ。お腹が空いたのか、さきほどから、にゃーにゃー、すりすり、と喧しいことこの上ない。ただしペット扱いすると機嫌が悪くなるので注意してね。知能進化させられた猫だから、そこらへんの人間なんかよりもよっぽど頭が良いんだから。知識という意味じゃなくて、頭の回転の良さという意味でね。今時、知識だけなら脳に直接圧縮転送させる事は可能だし、今の時代、それを上手く使いこなすことができるかどうかが問われてるわけ。ほら、語学の試験の時にどんなに分厚い辞書を持っていたって、使う人間の要領が悪ければ上手く使いこなせないでしょ?宝の持ち腐れっていえば判りやすいかしら、それと同じね。
 知能進化処置を受けてそれが成功した猫は大変稀少な存在なんだけど、色々と縁があって私の手元にいるというか、なんというか。まあお互い命の恩人だし、それに相棒にするならおじさんよりも猫の方がいいし。かわいい女の子なら尚のこと良いのだけれど……
 などと韜晦していたら、大佐の声によって現実に引き戻されてしまった。


「今朝のBBCは観たかね」
「……いえ、現場より直接こちらに来ましたので。今日のニュースはまだ何も」
「ふむ、では観たまえ、2時間前の録画だ」
「にゃー」
 って、ウィンスロウ、いつの間にそっちの側に。裏切り者め。
「南のハブステーションは全壊したそうだが、幸いにして死人は出なかったそうだ。政府の主席事故調査官は、わざとらしい作り笑顔で大層不思議がっていたがね。大方、上からの圧力でうちの失態を揉み消されたことに対する嫌がらせだろうが、朝から随分ネチネチと遠まわしな嫌味を聞かされてな。まあそれを聞き流すのも私の仕事ではあるのだが」
「〜〜〜」
 大佐の膝の上で喉元を擽られ気持ちよさそうに咽を鳴らしているウィンスロウ。あ、ツナスティックまでもらってるし。というか、あんたも旨そうに食べない。今日の餌は抜きね。
「幸運能力に感謝しないとな。アレがなければ、死者は100人は軽く超えただろうからな。もっとも、けが人は重傷軽傷併せて500人以上は出たらしいがね。未明でなければ0の数がいくつ増えたことやら想像するだけでも恐ろしいが」
 今も私の背後の窓からは、ステーションのある方角より黒煙が遠く立ち上っているのが見えることだろう。リスボンでも有数の大型ハブステーションの一区画を丸ごと吹き飛ばしたのだ(重ねていうがこれは事故だ、私は享楽的で愉快犯的な爆破マニアではない)
 まさに地図を書き換えなくてはならない、という事態なのだが、例によって例のごとく死人は出なかった。私も全身に軽い擦過傷と煤まみれ程度で済んだし、ウィンスロウは元々黒いのでよく分からないが怪我はないようだ。……あとで風呂場でみっちりと隅々まで猫用シャンプーで洗ってあげるわ〜、覚えてなさいよ。
 私からの怨念の念波を受信したのか、悪寒を感じたように、びびびっと全身の毛が逆立ったようになったウィンスロウはビクッとこちらを振り向いた後にツナスティックを咥えたまま大佐の膝の上で暴れ出す。もっとも、がっちりと大佐によって押さえつけられているので逃げ出したくても逃げ出せないようだが。ウィンスロウは恨めしそうに大佐をジト目で睨むが、大佐は素知らぬ顔で空いた片手でウィンスロウの頭を撫でている。
「動物虐待は感心しないな。       状況は定時連絡と、途中からは衛星からのリアルタイム映像で確認しておったから、こちらも大体は把握しておるがね、その、なんだ。これを言うのももう何度目か数えてはおらんが、君はもうすこしスマートに仕事ができんのか?」
「はあ」
「まあいい。それも君の特性なんだろう、要は運用次第だ。適度なイレギュラーな騒動を受容しつつもクリティカルな場面に投入することが可能な職場。ふむ、一度、宙軍の最前線にでも出てみるかね?一点豪華主義ではあるが高レベルの幸運能力者である美の女神(ヴィーナス)の加護に授かりたいものは数知れないだろう」
「3日後には、疫病神扱いされるだけだと思いますが」
「やつらも死ぬよりはましだろう」
「敵味方問わずで全員無力化するのがオチですよ、きっと」
「軍需産業と医療用再生槽メーカーの株が上がりそうだな」
 どこまで本気でどこまで冗談なのかよく分からない会話になってきたわね。情報省の人間は軍とは完全に無関係ではないから、あながち冗談で済ませられる会話と言い切れないところが怖いわ。

「まあ前置きはこのぐらいにしておくとしてだ」
「え、ちょっと待ってください、前置きって ……先ほどまでの話、その、冗談ですよね?」
「実は、お前たちがお祭り騒ぎをしていた現場に、たまたま我が連合の高名な学者が居合わせておってな。7歳で留学先の帝国第一王立大学院を優秀な成績で卒業した現在13歳の少女だ。プロファイルにはさらに連合の有力議員の孫娘という項目まで追加されとる。幸いにも彼女自身は奇跡的に無傷で済んでおるが、随伴者達、その中にはうちの局員も何人か含まれておるが、それぞれが半死半生といったところでな。程度に差こそあれ、3週間〜4ヶ月の再生槽入りだそうだ。良かったな、彼女に、もしもなにかあったとしたらお前のその稀少能力込みだとしても庇いきれなかったところだったぞ」
「……」
「どうした?」
「……いえ。しかし、連合の有力議員の孫娘が帝国の大学に留学ですか?連合にも優れた大学はいくつもあるはずですが」
「高度な政治的取引というやつなのだろう。当時、あちらからも何人か連合に来ておったらしいからな。まぁ、表向きは親善の使者、裏では随伴者達による様々な工作活動があったのだろう。などとは素人でも見当がつくが、今は関係のない話題だ」
「それで、7歳にして院卒の現在13歳の学者の女の子がどうしたんです?……その娘、サヴァンなのかしら」
 私がそう呟くと、大佐は深いため息とともに紫煙を吐き出した。
「……君はつくづく外交には向かんな。本人やその周辺の前でそれを口に滑らすんじゃないぞ。中立惑星であるリスボンで三日後に予定されている学会に参加するにあたり、情報省よりの補充要員に君を指名したのだよ、彼女は」
「私を、ですか?」
「ああ、なんでも君のファンらしい。美の女神のな。それに今回の一件で我々は議員に対して大きな借りを作ってしまった。彼女には、君に要人警護の適性がないということは何度も念押ししたが、それでも構わないの一点張りだ。情報省に対する直接のこの依頼、負債を抱えた我々には到底断りきれん」
「はぁ、まあそれは別にいいんですけど。ところで、その娘、専攻は何の学者なんです?」
「特殊位相差エネルギー研究における第一人者ということらしいな。例の「壁の穴理論」の理論検証・物理追試に際しても8歳の時に国連主催の学会から第一級の招聘をされておる。家柄の事もあるし、また才能も豊かな新進気鋭の若き超VIPといったところだな。彼女自身は、真なる真空からのエネルギー揺らぎの観測だの、多次元の連結歪みによる時空蒸発熱がどーだの、非アインシュタイン空間におけるトポロジー熱力学がどうだの、私には意味不明だ。最近では私にも身近な天然燃料水晶についての論文も数多く発表しておるらしいから試しにいくつか読んでみたが数式と記号だらけでさっぱりわからん。やつらは数式と記号で人同士の会話が成立するとでも思っておるのかね」
 そりゃまあ、学生の書く学位論文とは訳が違うんでしょうから、素人が読んで分かるわけはないと思うけど。そんなことよりも
「この先、彼女が狙われる可能性は?」
「ある。だから先のことには目をつぶり、あえて君を指名してきた、とも言える。建前だがね。もっとも彼女のケースの場合、殺害よりも拉致の可能性の方が高い筈なんだが。当初、彼女を狙ったテロだと勘違いした学会や議員の慌てぶりは相当なものだったぞ。拉致を計画して動くなら帝国だとばかり考えておったところにいきなりの区画ごと爆破なんぞ、それこそ一見すれば対象者を絞り込ませないなどというような強引な手段で来るような相手だったからな。ウロボースあたりならその目的は不明なものの本気でやりかねんと誰もが思ったところで爆破現場を再確認したら ……まあ結果としてお前の仕業だったというわけだが」
「それが分かっていて、なお私を指名する本当の理由は?」
「一つには、お前の存在が近くにあれば、あれほどの大惨事にも関わらず必ず死者は出ないということが改めて彼らの身をもってして証明されたからだ。二つには、どんな事態にもイレギュラーはつきものだということだ。今回が良い例だな。拉致されても困るが死なれてはもっと困るのだ。三つには、お前に今回の事態を招いた責任をとらすということ、これはまあ双方による手打ちだな。我々としてもお前というカードをこのような任務で一時的にとはいえ失うのは惜しいが、仕方あるまい。四つには、結局はこれが一番の理由なのだが、彼女が個人的にお前のファンだということ。彼女に感謝しておけ、怒り心頭の議員に対して熱心に助命嘆願をしたのは本来被害者である筈の彼女らしいぞ」
 大佐はそういって、彼女のプロファイルがまとめられた紙の書類を私に向かって机の上を滑らせてきた。
「ナナミ・G・オルフェウス。名門オルフェウス家の四人兄妹の三女だ。祖父は連合の有力議員、父親は外務官僚、母親は宙軍の重巡洋艦艦長。長男は商社勤務後に連合地方評議会議員と経済対策諮問委員を兼務、長女次女はそれぞれ芸術に秀でていたようで、古典画家にバイオリニストだそうだ。多芸な一家だな……なんだ、不服か」
「いえ」
「守備範囲から外れたからといって、仕事の手を抜かないようにな」
「問題ありません」
 あらためて書類に添付されている写真に目を向ける。綺麗な長い黒髪の、年相応に温和しそうな可愛らしい少女だ。日系なのかしら?
 そういえば、以前の仕事にもいたわね、日系の学者って。あのときは13歳くらいかと思って端からあきらめてたんだけど、任務が終わった後に、まさかあの娘が18歳だったなどと聞いたときには絶望したものだったわ。今でももったいない事をしたと思ってるのよね、日系のあの見た目と年齢のギャップがたまらないというか。あれ以来、必ず相手の年齢を確認することにしてるんだけど、今回ばかりは外見通り13歳で間違いないようなのよね、チッ。
「そういうわけだ、くれぐれも粗相のないようにな。これ以上の失点はお前のキャリアの致命傷となりかねん。殿下でもお前を守り切れんものと思え」
「はい」
「では、今より1時間で身支度を整えた後に、本館地下の第3特別室まで来るように。そこで彼女と面会と同時にそのまま北のハブステーションまで特別護送車で護送することになる」
「うへー」
「急ぎたまえ。あと59分43秒だぞ」
「ウィンスロウ、行くわよ」
「にゃ」
 と、それまで大佐に良いように遊ばれていたウィンスロウはこれ幸いとばかりに拘束から逃れて、私の肩に飛び乗ってきた。もっとも、私としても、今回はウィンスロウとはゆっくりと話をつけないと気が済まないから、助かったなどとは思わない事ね、ふふふふふ。




「さて、とりあえず、一人でシャワーと着替えと携帯食を食べるだけというなんとも悲しい時間を過ごしただけで1時間弱が過ぎ去ってしまった訳なんだけど」
「にゃにゃー」
 あ?お腹が減った?あんたさっき大佐からツナスティック貰ってたじゃない。贅沢言わないの。てゆーか、今回のハブステーション爆破の主犯が何言ってるのよ、このハッピートリガーめ。あの場合のあんたの気持ちもわかんないわけでもないけど、とりあえずって感覚で爆発物を放り投げる癖は何とかしなさい。場所をわきまえなさい場所を。怒られるのは私なんだからね。まったく。

 VIP用の第3特別室の前まで来た私は、身だしなみにおかしなところはないか最終チェックを済ませた後にドアをノックする。するとドア横に取り付けられた外部スピーカーより応答があった。
「エイプリル・イーナスさんですね?どうぞ、鍵は開いておりますわ」
 その鈴を鳴らすかのような可憐な声の返答に私は、ぎょっとした。いや、いくら何でも不用心すぎるのではないか。ここが情報省の施設内とはいえ、絶対の安全など保証できないのだ。それに彼女は、今日の未明に大惨事に巻き込まれたばかりだ。普通なら過剰なまでに安全保障に対して神経質になっていてもおかしくはないはずなのに、このある意味大物ぶりはなんなのだろうか。まあ、警護する身としては下手にビクビクされるよりは楽といえば楽なのだが。
「では、失礼します」
 ノブに手を触れると、生体スキャンと量子暗号錠の確認すら必要なく、扉は音も無く自動で開いてしまった。この娘、本当に施錠してなかったのね。
 VIP用の作りのためか、扉一つとっても作りが違う。対爆性はもちろんのこと、開閉の動作音もほぼ無音、またなめらかな動きだ。これだけで私の年収何年分なのかしらね、などとひどく庶民的な事を考えながら落ち着いた調度で整えられた部屋へと足を踏み入れた。
「初めまして、ミス。情報省諜報員のエイプリル・イーナスです。このたびは大変なご迷惑をおかけ致しましたことを深くお詫び申し上げます」
 割と本心で、年端もいかぬ少女に私は謝罪した。私の幸運能力を持ってすればあらゆる生物は事故では死なないとは分かってはいるが、それでもこんな小さな子供が傷つくところを私は見たくはなかったからだ。連れの方々には、ご愁傷様としか言いようがないが。
「ナナミで結構ですわ。わたしもあなたのことをイーナスと呼びたいですし。それに、ここだけの話なのですけれど、実はわたし、貴女には大変感謝しているし、今回の事も、とてもとても楽しんでおりますのよ?」
 まるで、桜の花が咲き誇ったかのような気持ちの良い澄んだ笑顔とともに、そのような事を宣ってくる目の前の女の子。いやナナミ。うん?この娘はいったい何を言い出すのだ?
「だって、わたしって今まで色々とお目付役がいて、ろくに外出もままならなかったんですもの。本来なら留学中だって、せっかく籠の中の鳥の生活を余儀なくされていた息苦しい実家から出ることが出来て大いに羽を伸ばせるはずだったのに、結局はキャンパスと寮との間を見張り兼護衛付きの送迎車で往復するだけの毎日。せっかくわたしにとっては異世界とも呼べる帝国に行ったというのにろくに観光も出来ませんでしたわ。やっとこの目でネロの大火遺跡を目の当たりすることが出来ると期待しておりましたのに。帝国にしかありませんのよね、あの遺跡って。それにしてもすばらしいですわよね、建造の後の破壊って。だって、何百年とかけて人々が作り上げてきて営んでいたものが一瞬にして灰と化すんですもの、これほどのエンターテイメントってこの世界にあるかしら?」
 んんー?
「だからもうこんな息苦しいところからはさっさと逃げだそうと思って、とにかく単位を取れるだけ取りまくって、空いた時間には論文を書いて書いて書きまくってやりましたわ。気がついたら、大学入学から僅か2年で博士号まで習得してしまいましたけど、今から思えば、あれって結局ストレスのはけ口に書き殴っただけの出来の悪い論文ばかりなんですのよね、当時の論文を読み返すと赤面するばかりですわ。それにしても、ふふっ、我ながらちょっと大人げなかったかしら」
 んんんんんー?
「ですから、イーナスには感謝してもしきれませんの。今でも目をつぶればまぶたにこびりついて離れませんわ。あの爆発、あの閃光、あの破壊、爆圧熱風衝撃轟音!高温に熱せられた際に発する建材からの独特の臭気、非常灯の頼りない光の中でもその存在感たっぷりの摂氏千数百度に達する火柱の固まり、周囲の逃げ惑う人々から発せられるアドレナリンの甘美な香り ……ああ〜、すばらしいですわ〜」
 それはもう、とてもとても恍惚とした表情で悦に入っている目の前のナナミ。
 えーと、あれー?
「そんな中、なぜか無傷のままのわたしが火柱ごしの遠くに貴女を見つけたときには、運命を感じましたわ。ああ、わたしは貴女に逢うために生まれてきたんだって。貴女はわたしのことをご存じなかったでしょうけど、わたしは貴女のことを以前から存じ上げておりましたのよ?他に類を見ないタイプの高レベルの幸運能力者にして美の女神、エイプリル・イーナス。口さがない人たちはヴィーナス(むだなV(ain).ENUSイーナス)と呼ぶみたいですけれど、わたしにとって貴女はまさに美の女神だわ。破壊と再生を司る荒ぶる美の女神、ああ、なんて素晴らしいのかしら、この感動を正確に伝えるための式が見つからないわ、貴女ってホント最高よ、どんな公理系よりも美しくそして完全だわ。貴女の存在に比べたら、わたしが今まで書いてきた論文なんてゴミのようなものね」
 おーい。
「お祖父様ったら、そんな貴女を更迭するだなんて息巻いているんですもの、わたし手近にあったブリタニカの角で思いっきり頭をぶん殴ってやりましたわ」
 いや、それお祖父さん死んだんじゃないの?あなた本当に大丈夫なんでしょうね?
「その後お祖父様とゆっくり95秒もの長話をして、イーナスのことを許してもらえるようにお願いしたの。だって、被害者であるわたしが気にしないって言ってるんですもの、何の問題もありませんわ、そうですわよね?」
 とゆーか、あなた以外は全員半死半生で、なおかつ施設には多大なる被害が発生しており、おそらくは数十億ポンド単位の被害が発生しているというかなんというかー。
「ああっ、今回の旅はとっても楽しみだわ。どんなスペクタクルが待ち受けているのかしらっ。今まで人づてに聞いていただけの夢にまで見たイーナスの冒険に、このわたしがヒロインとして参加できるなんて!」
 おいおい、いつから私は冒険活劇の主人公になったんだ。この物語はスパイアクションであって、けっしてイン○ィージョー○ズでもなければトゥー○レイ○ーでもないんだからね。
「そういう訳ですから、イーナス。どうかわたしのことをしっかり守ってくださいね?」
 そういって私の胸にしな垂れかかってきたナナミ。えーと、私の守備範囲は15歳以上からなんだけどなー、あんたわかってんでしょ?
「存じ上げておりますわ、キスは15歳から、大人のキスは16歳から。ですわよね?      でもスキンシップぐらいなら構いませんでしょ?」
「はぁ、まあいいんだけどね。ところで今更なんだけど、ここでの会話、警備上の事もあって絶対的消去不可録音されてるんだけど?」
 言葉を取り繕うのも馬鹿馬鹿しくなってきたので、猫かぶりはやめて普段通りの対応でいこうと決めた私が、そう話題を振ってやると、彼女は、やっと悪戯が成功したといわんばかりの笑顔をのぞかせて、さらに私にしがみついてきてこう言った。
「あら、全く問題ありませんわ。今のところお互いにとってなにか不都合な発言がありましたかしら?」
 いや、むしろあんたの人格上の問題が噴出しまくりのような気もするのだが、自覚がないのかこの娘は。あれか、やっぱり世間一般でよくいうところの、天才となんとかは紙一重、という俗説はやはり正しい認識だったのだ、ということなのだろうか?


 そんな一抹の不安を覚えながらも、ソファに腰掛けながら向かい合わせの姿勢で身体を預けてくるナナミの、その長く美しい黒髪の感触を楽しむように愛撫し続けるのだけは忘れないイーナスなのであった。





つづく

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原作:トランジスタにヴィーナス






なかがきみたいなもの

イーナス的には相手の女の子が15歳未満でも、髪の毛を撫でるぐらいなら大丈夫っ! たぶん

どうも、ずいぶんと遅くなってしまいました、ただメモです
今回、なんと、初の続き物に挑戦してみたりしました。ああ、なんて無謀な試みを……
トランジスタにヴィーナスって、中編ものの集合体での長編作品でしたからね
なんとなくその流れで、この作品もそういう作りになってしまいました
しかし、このペースでいくと、つづきはいつになることやらー。その間にいくつか別作品を挟むことになるかもしれませんがご了承ください
ネタはあれども筆が進まず、とは昔の偉い人はよく言ったものだなーと実感してみたり
竹本先生ってすごいなー、あの内容の濃さで毎月何本も描いてるんだもんなーとしみじみと思ってみたり
さすがこの道、何十年のプロは違うぜ、と改めて尊敬の念をあらわにしてみたり

とまあ今回はそんな感じで締めくくりつつ、また次の機会にお会いしましょう。うじゃうじゃ




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